Projects

永尾グループ
▼天然物からの有用物質の探索



PPARγ reporter assay system


 天然には様々な生理活性を持つ化合物が存在している。それらの化合物は健康食品として用いられたり、新薬開発の出発点となったりしている。当研究室では、ヒト培養細胞を用いて天然物の生理活性を評価する系を作成し、様々な生理活性物質を探索している。具体的には、糖尿病に関わっているとされるタンパク質であるPPARγを活性化させる化合物や、肝臓へ感染するウイルスであるHCVの増殖を抑制する化合物を植物から単離している。これらの研究によって、新たな糖尿病治療薬やウイルス抑制剤の開発に繋がることや、新しい健康食品が生み出されることが期待されている。

神戸グループ
亜鉛トランスポーターの解析を通して、亜鉛の生理機能を解明する



亜鉛の生理機能に関する分子生物学的・栄養生化学的研究

 亜鉛は、創傷治癒や味覚、免疫機能の他、記憶に関連した神経機能など、多岐に渡って重要な役割を果たす必須栄養素です。そのため、生活の質(Quality of Life)の維持や向上に極めて重要な「食」要素となります。亜鉛の重要性は広く認識されていますが、その作用機序や体内亜鉛ホメオスタシスの維持機構に関しては、まだ十分に解明されていません。一方で、近年の研究の進展に伴い、亜鉛の新しい生理機能が相次いで発見されてきており、様々な疾患の発症と関連することも明らかにされてきました。神戸グループでは、このように、最近大きな注目を集めている亜鉛の機能を分子レベルで解明することを目的に研究を進めています。特に、亜鉛代謝に密接に関与する亜鉛トランスポーターに着目した研究に関しては、長年に渡って実施しており、現在も研究の軸として中心的に解析を行っています。以下に、大きな4つのテーマについて紹介します。

亜鉛トランスポーターの解析を通して、亜鉛の生理機能を解明する


①生体内の亜鉛ホメオスタシス制御機構に関する解析
 ・亜鉛トランスポーターはどのように亜鉛ホメオスタシスを制御するのか?
 ・亜鉛トランスポーターはどのように亜鉛と他の必須微量金属を区別しているのか?


 亜鉛は二価陽イオンとして存在するため、細胞膜を自由に通過することはできません。そのため、膜に発現する亜鉛トランスポーターが亜鉛の膜輸送には必須の役割を果たします。亜鉛トランスポーターには、インポーターとして機能するZIPとエクスポーターとして機能するZnTの二つに分類され、亜鉛ホメオスタシスは、14種類のZIPと9種類のZnTにより協調的に、かつ厳密に制御されています。当グループでは、「これら多数の亜鉛トランスポーターがどのように協調して亜鉛ホメオスタシスを制御しているのか?」「ZIPとZnTはどのように亜鉛を輸送機質として認識しているのか?」といった問いに対して、生化学、分子生物学、構造生物学的なアプローチから解析しています。


②消化管からの亜鉛吸収に機能する亜鉛トランスポーターを標的にした亜鉛栄養改善
 ・消化管からの亜鉛吸収メカニズムの解明
 ・消化管からの亜鉛吸収を促進する食品因子の探索と高齢者の亜鉛栄養改善


 現在、亜鉛欠乏患者の数は世界的に増加しており、特に、高齢者が亜鉛欠乏に陥る傾向が強いことが、様々な疫学調査から裏付けられています。したがって、日常の食事から亜鉛を充足させることが望まれますが、消化管での亜鉛吸収の効率は30%程度と低い上、摂取亜鉛量の増加や加齢に伴い減少してしまいます。すなわち、亜鉛欠乏を食品科学的観点から予防するためには、亜鉛摂取量を増やすだけでは効果的ではないことを意味しています。そこで、当グループでは、消化管(十二指腸・空腸)からの亜鉛吸収に必須の役割を果たす亜鉛トランスポーター・ZIP4に着目し、ZIP4による亜鉛の吸収機構を詳細に解析する研究を実施しています。さらに、「ZIP4発現促進活性を持つ食品の摂取→腸管でのZIP4の発現が促進→亜鉛の吸収効率上昇→亜鉛欠乏を予防」というアイデアを基に、亜鉛栄養改善を目的とした、ZIP4発現促進活性を持つ食品の探索同定も実施しています。


③分泌経路内に亜鉛を供給する亜鉛トランスポーターに関する基礎研究
 ・亜鉛酵素はどのようにして亜鉛を獲得してアポ酵素からホロ酵素へ変換されるのか?
 ・亜鉛酵素を標的にした新薬開発・検査薬開発のための基盤研究


 分泌生合成経路において成熟し、細胞外に分泌される酵素の中には、亜鉛を補因子とするものが数多く存在します。これらの酵素は、分泌経路の初期の段階で亜鉛を獲得し、アポ酵素からホロ酵素へと変換されるため、分泌経路内に亜鉛を送り込む亜鉛トランスポーターは、この活性化過程において重要な役割を果たすと考えられていますが、その詳細に関してはほとんど明らかにされていません。当グループでは、特定の亜鉛トランスポーター依存的に活性化される亜鉛要求性酵素を見出しました。そして、これまで漠然と信じられていた「亜鉛要求性酵素が亜鉛を受動的に獲得してアポ酵素からホロ酵素に変換される」という概念を覆し、「亜鉛トランスポーターが厳密な制御の下に、亜鉛を受け渡し活性化する」という亜鉛酵素の新たな作用機序を明らかにしました。現在、この分子機序の詳細を明らかにすべく解析を実施しています。さらに、これら亜鉛要求性酵素の中には、がん、高血圧、肥満、神経変性疾患などと密接に関連する酵素も数多く存在するため、本アプローチによって明らかにした成果を、新たな阻害剤開発に展開することを目指した研究も進めています。


④母乳中に亜鉛を送り込む亜鉛トランスポーターの機能解析
 ・低亜鉛母乳の発症原因となる遺伝子変異の同定
 ・母乳中への亜鉛分泌を促進する食品因子の探索と乳児亜鉛欠乏症の予防


 これまでも述べてきたように、亜鉛は必須微量栄養素として機能しますが、成長著しい乳幼児の成長・発育には、特に多量に必要となります。そのため、母乳中には、母親血清中の5〜8倍も高い濃度の亜鉛が蓄えられ、乳児の成長を支えています。したがって、亜鉛は、乳幼児栄養の観点からも不足することは許されません。また、生涯にわたる健康への影響の観点からも、乳幼児期の亜鉛不足は望ましくありません。母乳中への亜鉛の輸送には、亜鉛トランスポーターZnT2が重要ですが、当グループでは、ZnT2の遺伝子変異によって母乳中の亜鉛分泌量が減少し、この母乳で哺育された乳児が重篤な亜鉛欠乏に陥る複数の事例を見つけています。このZnT2の変異による乳児亜鉛欠乏症の発症メカニズムの全容解明、さらに、母乳中への亜鉛分泌を促進する食品の探索同定を実施し、乳児が亜鉛欠乏に陥るリスクを軽減させるべく研究を実施しています。